片づけは、いちばん最後で間に合います
四十九日が終わって、誰も住まなくなった実家の鍵を預かった。
とりあえず片づけに行ってみたら、押し入れの前で手が止まった。
ちなみに、押し入れから出てくるアルバムは時間泥棒です。
片づけから入った人は、たいていそこで一日が終わる。
順番の話を先にします。
片づけは、いちばん最後で間に合います。
先にやるのは、名義の確認と書類集め、そして金額の目安を持つこと。
読み終わると、今日どこから手をつけるかが決まります。
ひとつだけ先に。
査定額は「この金額で売れる」という約束ではありません。
ひとつ、この記事で扱わないことも先に。
どこへ頼むかの選び方は、別の1枚にまとめてあります。
相手の候補から先に見たいなら、査定を頼む相手の型と、選ぶときの5つの軸へどうぞ。
実家を売るとは結局なにをすることか
売却は、ひとことで言えば「買う人を探して、名義を渡す」作業です。
その入口にあるのが査定。
いまの相場からいくらくらいで売れそうかを、不動産会社に見積もってもらう作業です。
頼んだからといって、売る義務は生じません。
査定には2つの段階があります。
ひとつは机上査定で、住所や面積などのデータだけで金額を出す方法。
もうひとつが訪問査定で、実際に建物を見てから金額を出します。
遠方の実家なら、まず机上査定から入るほうが体力を使いません。
訪問査定は、数字を見てから決めれば足ります。
申し込むと、物件情報の確認のために電話かメールで連絡が来ます。
都合の悪い時間帯があるなら、申込フォームの段階で書いておくと楽。
訪問査定を選ぶ場合は、家を見てもらう時間が別に要ります。
ここで、お金の流れの話を。
査定が無料で成り立つのは、売却が決まったときの仲介手数料が不動産会社の収益源だからです。
つまり査定した会社は、そのあとの売却も任せてほしいと考えています。
私はお金のことを考えるとき、まず仕組みの取り分が誰に流れているかを見ます。
取り分の場所が分かると、相手の出方が読めるからです。
知ったうえで使えば、査定は十分に役に立つ道具になる。
知らずに使うと、金額の大小だけで会社を選ぶことになります。
そこだけの話です。
ここまでが、どの家でも共通する内容です。
あとは自分の物件を、どこにどう頼むかだけ。
先に条件を書き出しておくと、余計な往復が減ります。
くり返します。
出てくる金額は見込みであって、その値段で売れることを約束するものではありません。
名義が変わっていないと、売る手前で止まります
ここが、いちばん多いつまずきどころです。
売却には、登記上の名義が売主本人になっている必要があります。
法務省も、相続した不動産の売却には相続登記が必要だと明記しています。
抵当権を設定する場合も同じです。
亡くなった親の名義のままでは、買主に渡せません。
その相続登記が、2024年4月1日から義務になりました。
不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請する、というのが原則です。
正当な理由がないのに怠ると、10万円以下の過料の対象になります。
2024年4月1日より前に相続したことを知った不動産にも、義務はかかります。
その場合の期限は2027年3月31日。
遺産分割がすぐにまとまらないときは、相続人申告登記という簡易な方法もあります。
期限内に法務局へ申し出れば、義務を果たしたとみなされる制度です。
ただし、これは売却に必要な名義の移転にはなりません。
期限があるのは事実ですが、慌てて走る必要はありません。
順番どおりに進めれば足ります。
相続登記の期限は、亡くなったことと自分が相続人だと知った日から数えます。
査定の前にそろえる書類
査定を受けるだけなら、そろえるものは多くありません。
- 住所・面積・築年・間取りといった物件の基本情報。
- 固定資産税の納税通知書と課税明細書。
- 法務局で取れる登記事項証明書。
- 手元にあれば、測量図や建築確認済証。
いちばん役に立つのは、2つめの納税通知書です。
面積も評価額もまとまって載っているので、これ1枚で入力欄がかなり埋まります。
登記事項証明書の手数料も書いておきます。
法務局の手数料一覧(2025年4月1日から)では、書面請求が1通600円。
オンライン請求なら、郵送での受け取りが520円、窓口での受け取りが490円です。
売却の段階まで進むと、戸籍の束が要ります。
法務局に申し出れば、法定相続情報一覧図の写しが戸籍謄本の束の代わりになる。
相続した実家を売るまでの流れ(7つの手順)
- 遺言があるかを確かめる。
- 戸籍をたどって相続人を確定する。
- 分け方を話し合う(遺産分割協議)。
- 法務局で相続登記をして、名義を移す。
- 査定を受けて、金額の目安を持つ。
- 売却を任せる会社と媒介契約を結ぶ。
- 売買契約・引渡し・翌年の確定申告。
この順番には、抜け道がひとつあります。
手順5の査定は、名義が変わる前でも受けられます。
売るのに名義が要るだけで、金額を聞くだけなら先にできる、ということ。
むしろ、手順3の話し合いには金額の目安があったほうが進みます。
そこで、5を3や4より先に持ってくることもよくある話。
手順6の媒介契約についても、事実を書いておきます。
宅地建物取引業法では、専任媒介契約と専属専任媒介契約の有効期間は3か月を超えることができません。
これより長い期間を定めても、期間は3か月になります。
では、報告はどうか。
専任媒介なら2週間に1回以上、専属専任媒介なら1週間に1回以上です。
一般媒介には、この義務がありません。
どれを選ぶかで、動き方が変わる。
ここは契約を結ぶ前に聞いておくところです。
媒介契約を結ぶときは、書面が交付されます。
その場でサインを求められても、一度持ち帰ってかまいません。
断っても、査定を受けたこと自体で失うものはない。
つまずきやすいところ
- 相続人の1人と連絡が取れず、話し合いが始められない。
- 家財が残っていて、訪問査定の写真が撮れない。
- 土地の境界が確定していない。
- 実家が遠方で、訪問の日程が合いにくい。
- 「3年」の起算日を、亡くなった日だと思い込む。
最後のひとつは、勘違いが多いところです。
数えるのは亡くなった日ではなく、相続で不動産を取得したことを知った日から。
兄弟がいるなら、話す前に数字を1つ出す
実家の話は、金額の話であると同時に家族の話です。
だから進まない。
「売ろう」と言い出した人が悪者になる空気があって、誰も切り出せないまま何年も過ぎる。
よく聞く話だと思います。
そこで効くのが、数字を1つ出すことだと私は考えている。
「売ろう」ではなく「いくらか分かった」から始めれば、感情の話が条件の話になります。
売らないという結論でもかまいません。
ここで、期限の話をひとつ。
2023年4月1日から、相続開始の時から10年を過ぎたあとの遺産分割は、原則として法定相続分によることになりました。
例外もあるので、自分の期限は家庭裁判所か専門家で確認してください。
売って現金で分ける方法は、換価分割と呼ばれます。
この方法を選ぶなら、査定は選択肢ではなく手順の一部。
話し合いの席には、金額の目安をひとつ持っていくと早い。
税金は、先に3つだけ知っておけば足ります
ここは淡々と書きます。
ひとつめ。
売って利益が出ると、譲渡所得として課税されます。
売った年の1月1日時点で、所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得です。
税率は所得税15%、住民税5%。
これに加えて、2013年から2037年までは復興特別所得税がかかります。
基準所得税額の2.1%を、所得税と併せて申告・納付する仕組みです。
所有期間が5年以下の場合は税率が変わります。
相続には、ここで効いてくる決まりが1つ。
相続で取得した土地や建物は、亡くなった方の取得日と取得費をそのまま引き継ぎます。
親が何十年も前に買った家なら、相続してすぐ売っても長期の扱いになるということです。
ここは知らないと損得を読み違えます。
ふたつめ。
親がいくらで買ったか分からない、という場合の話です。
売った金額の5%を取得費とすることができます(概算取得費)。
ただし、これを使うと利益が大きく出ます。
古い売買契約書が実家から出てくることがあるので、片づけのときは捨てないでください。
アルバムより、そちらが本命。
みっつめ。
使える可能性のある特例が2つあります。
相続した空き家を売ったときの3,000万円特別控除と、相続税を納めた人が使える取得費加算の特例です。
取得費加算のほうには期間の条件があります。
相続開始のあった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売っていること。
そして重要なのは、この2つは同時に使えないという点です。
3,000万円控除は、取得費加算などの特例を受けていないことを適用の要件にしています。
つまり、どちらかを選ぶ話。
どちらが有利かは、売値と相続税額で変わります。
人によって答えが違うところ。
どちらを選ぶにしても、売値の目安がないと比べられません。
特例を使う場合の注意も1つ。
税額がゼロになる場合でも、確定申告が必要です。
3,000万円控除では、市区町村長が発行する「被相続人居住用家屋等確認書」も添付します。
税額そのものは、この記事では出しません。
金額が大きい話なので、税理士か所轄の税務署で確認してください。
ここから先は、頼む相手を選ぶ話になります
ここまでが、どの家でも共通する順番です。
残っているのは、どこへ頼むかだけ。
相手には型があって、型ごとに連絡の来方も手間も違います。
そこは連絡の来方まで含めた、相手の見分け方に書きました。
ここでも念のため。
査定で出る数字は判断の材料であって、売却価格の約束ではありません。
私がこの順番で書いている理由
先に、私の立場をはっきりさせておきます。
私は1974年生まれの団塊ジュニアです。
人材会社をやっていました。
自分でも転職を5回、6社を渡り歩いています。
宅地建物取引士でも、税理士でも、司法書士でもありません。
相続した実家を売った経験もない。
だからこの記事では、制度と手続きと、お金の判断の順番だけを書いています。
数字は法務省・法務局・国税庁・国土交通省の公表内容にひもづけました。
そのうえで、順番について1つだけ。
私が自分の不動産の借入を決めたとき、確かめたのはただ1つでした。
月々のキャッシュフローがプラスになるかどうか。
極論すれば、それだけです。
実家を持ち続けるかどうかも、同じ形にできます。
固定資産税・火災保険・水道光熱の基本料金・たまの草刈り。
持ち続けると月にいくら出ていくのかを数字にすると、感情の話が条件の話に変わります。
売値がこれから上がるか下がるかは、私には分かりません。
分からないものに賭けるより、出ていく額と入ってくる額を先に見る。
……と書いておいて何ですが、順番どおりに進む相続のほうが少ないです。
連絡が取れない、書類が出てこない、話がまとまらない。
それでも、名義と金額のどちらかは先に動かせます。
お金まわりの手続きは、実家の話だけを切り離すより順番で見たほうが迷いません。
お金の手続きの順番をまとめて見ると、いま自分がどこにいるかが分かります。
この記事の制度に関する内容は2026年8月7日時点で確認したものです。
制度も手数料も変わります。
最新は法務局・国税庁・市区町村や各社の公式サイトでご確認ください。
名義と書類のめどが立ったら、次は相手選びです。
どこに頼むかを決めるための判断軸を読んでから動くと、空振りが減ります。
この記事を書いた私がどういう人間かは、運営者情報のページに書いた経歴をご覧ください。
申し込みのあとに、担当者から物件についての確認の連絡があります。
その場で売ると決める必要はありません。
掲載している条件は変わることがあります。
申し込む前に、公式サイトで最新の内容をご確認ください。

