誰も住まないのに、誰も「売ろう」と言い出せない
実家に住む人はいない。
兄も自分も持ち家がある。
それなのに、法事のたびに実家の話だけが宙に浮いて終わる。
あの空気には名前がついていないだけで、実体はあります。
言い出した人が悪者になる、という配役が最初から決まっている空気です。
先に結論を書きます。
分け方は4つあり、そのうち「売って現金で分ける」のが換価分割。
兄弟が全員そこに住まないなら、話がいちばん進みやすい形です。
読み終わると、次の集まりで何を持っていけばいいかが決まります。
ひとつ先に。
この記事は、誰がいくら取るべきかという話はしません。
もう1つ、先に振り分けをします。
実家が小田急沿線にあるなら、査定を頼める相手の条件が他の地域と違います。
そこだけ先に見るなら、小田急沿線に物件がある場合の選択肢へ。
分け方は、一般に4つに整理されます
遺産分割とは、相続人が全員参加して財産の分け方を決める手続きです。
- 現物分割。実家は兄、預金は弟、というように現物のまま分ける。
- 代償分割。1人が実家を取得し、他の相続人に金銭を払う。
- 換価分割。売却して、現金を持分に応じて分ける。
- 共有。分けずに、相続人の共有名義のままにしておく。
この4つのうち、実務でこじれやすいのが代償分割です。
払う側に現金がないと成立しないからです。
実家の評価額が3,000万円で兄弟2人なら、兄は弟に1,500万円を用意することになります。
4つめの共有は、いちばん楽に見えて、いちばん後が重い。
法務省も、共有状態の財産は管理や処分を相続人同士で決めなければならず、不便なことが多くなると説明しています。
時間が経つと次の世代の相続が起きて、権利関係が複雑になるとも書かれています。
兄弟2人の共有が、10年後には甥や姪を含む6人の共有になっている。
そういう形は、実際に起きます。
換価分割の、実際の順番
ここからは淡々と書きます。
- 相続人を確定し、遺産分割協議で「換価分割にする」と決める。
- 協議書に、売却して代金を分けることと、その割合を書く。
- 相続登記をして、売主になれる名義にする。
- 査定を受けて、売り出す金額を決める。
- 売買契約・引渡し。代金を協議書のとおりに分配する。
手順3が要になります。
売却には登記上の名義が売主本人になっている必要があるからです。
亡くなった親の名義のままでは、買主に渡せません。
手順4の査定は、名義が変わる前でも受けられます。
むしろ、手順1の話し合いの席に金額の目安があったほうが早い。
「売るかどうか」を決めるのに、いくらかを知らないまま議論しても進まないからです。
名義を誰にするか、という選択
換価分割では、登記の入れ方が2通りあります。
1つは、相続人全員の共有名義にしてから売る方法。
もう1つは、代表者1人の名義にして、その人が売る方法です。
後者のほうが、契約や決済の手続きは軽くなります。
ここで多くの人が心配するのが、贈与税です。
1人の名義にしたら、他の兄弟に渡す代金は贈与になるのではないか。
この点について、国税庁が質疑応答事例で回答を出しています。
共同相続人のうち1人の名義で相続登記をしたとき、それが単に換価のための便宜のものである場合。
そして代金を、分割に関する調書の内容に従って実際に分配した場合。
この条件なら、贈与税の課税問題は生じないとされています(2026年8月7日に確認)。
読み取れるのは、書面と実際の分配が一致していることが前提だということ。
だから遺産分割協議書に、換価分割であることと分配の割合をはっきり書いておく。
ここは司法書士か税理士に見てもらうところです。
売却して利益が出た場合の譲渡所得は、持分に応じて各相続人が申告する形になります。
1人がまとめて払うものではありません。
金額が大きい話なので、申告の仕方は税務署か税理士で確認してください。
なお、相続した空き家を売ったときの3,000万円特別控除には、人数による違いがあります。
その家屋と敷地を相続で取得した相続人が3人以上だと、控除額の上限が変わる。
兄弟の人数が金額に効いてくるので、ここも税務署か税理士で確認してください。
期限が2つあります
急かすつもりはないので、事実だけ書きます。
1つめは相続登記です。
2024年4月1日から義務になり、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内が期限。
2024年4月1日より前に知っていた分は、2027年3月31日までです。
2つめが遺産分割そのものの期限です。
2023年4月1日から、相続開始の時から10年を過ぎたあとの遺産分割は、原則として法定相続分によることになりました。
これが何を意味するか。
「自分は親の介護をした」「兄は生前に住宅資金を出してもらった」といった事情。
10年を過ぎると、それらを踏まえた具体的相続分での分割を求められなくなります。
例外もあります。
10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所へ遺産分割を請求していた場合。
やむを得ない事由があった場合の救済も定められています。
10年を過ぎても、相続人全員が合意すれば具体的相続分で分けることはできます。
ただし、それは全員の合意が前提。
いつが期限になるかは相続の開始時期で変わるので、家庭裁判所か専門家で確認してください。
こじれる前に、数字を1つ置く
私が伝えたいのは、順番の話です。
「売ろう」から始めると、感情の話になります。
「いくらか分かった」から始めると、条件の話になる。
同じ内容を話していても、入口が違うだけで席の空気が変わります。
もう1つ。
同じ実家でも、立場によって正解が変わります。
近くに住んでいて管理できる人と、飛行機で行く人とでは、持ち続けるコストがまるで違うからです。
そこで効くのが、月々いくら出ていくかを数字にすることです。
固定資産税・火災保険・水道光熱の基本料金・たまの草刈り。
持ち続ける側の負担が見えると、押しつけ合いが減ります。
売値がこれから上がるか下がるかは、私には分かりません。
分からないものを前提に話すより、いま出ている数字で話すほうが早い。
そのために査定があります。
金額の目安を取るところから始めたい人は、相続した実家を売るまでの手順と必要書類を見るのが早い。
順番と書類、それに頼む相手の順位までまとめて分かります。
換価分割が向かない場面
次に当てはまるなら、換価分割は選ばないほうがいい場面です。
- 相続人の誰かが、その家に住み続けたいと考えている。
- 先祖代々の土地で、売ること自体に強い反対がある場合。
- 遺言の有効性や遺産の範囲を、相続人の間で争っている。
- 相続人の1人と、まだ連絡が取れていない状態。
- 建物や土地に、売却を難しくする事情があるとき。
住み続けたい人がいるなら、代償分割のほうが筋がいい。
ただし、払う側の資金の話がたいてい出てきます。
争いがある場合は、話し合いの前に家庭裁判所です。
遺産分割の調停という手続きがあり、最寄りの裁判所で相談できます。
順番が逆になると、手戻りが大きくなります。
この記事の立ち位置
私は1974年生まれの団塊ジュニアです。
人材会社をやっていました。
自分でも転職を5回、6社を渡り歩いています。
弁護士でも司法書士でも税理士でもありません。
この記事の制度に関する内容は、法務省と国税庁の公表内容にひもづけて書きました。
誰がいくら取るべきかという判断は書いていません。
……と書いておいて何ですが、家族の話に「正しい分け方」はないと思っています。
あるのは、全員が納得できるかどうかだけ。
そのために材料を並べるところまでが、外から手伝える範囲です。
この記事の内容は2026年8月7日時点で確認したものです。
制度は変わります。
最新は法務省・国税庁・裁判所の公表内容でご確認ください。
この記事を書いた私がどういう人間かは、運営者情報のページに書いた経歴をご覧ください。
