師長に「ご相談があります」と言おうとして、詰所の前で3回引き返した。そのあとで「看護師 退職 伝え方 引き止め」と検索した人に向けて書いています。

結論を先に置きます。退職の切り出しは、気持ちの問題ではなく順番の問題です。決めるのは「誰に」「いつ」「何を」の3つだけ。この3行が紙に書けた時点で、話の8割は終わっています。

法律で決まっている最低ラインを、先に知っておく

不安の量は、知らないことの量に比例します。だから土台から。

期間の定めのない雇用であれば、いつでも解約を申し入れることができ、申入れの日から2週間を経過することによって雇用は終了します。民法627条1項です(2026-08-04時点、e-Gov法令検索で確認)。相手の承諾は要件になっていません。

そのうえで、実務では就業規則の申出期限に従います。多くの職場が「◯か月前まで」と定めていて、シフトと引き継ぎの都合があるからです。まず見るのは、民法ではなくあなたの就業規則です。

この2つを知っていると、話し方が変わります。お願いではなく、報告と相談として話せるようになるからです。

「誰に」「いつ」「何を」を1行ずつ書く

  1. 誰に:直属の上長(多くは師長)です。仲の良い同僚や主任に先に話すと、本人より先に噂が届きます。ここは順番を守ります。
  2. いつ:就業規則の申出期限から逆算した日。あわせて、面談の時間を先に取ります。廊下やナースステーションで切り出さない、というだけで話が落ち着きます。
  3. 何を:最初の面談で言うのは3文だけです。「退職を考えていること」「希望する最終出勤日」「引き継ぎは責任を持って行うこと」。理由の詳細は、この時点では不要です。

最初の一文の型を1つ置いておきます。

「お時間をいただきありがとうございます。私事で恐縮ですが、◯月末での退職を考えており、ご相談させていただきたく思っています。」

短くていいです。長い説明は、そのぶん反論の取っかかりを増やします。

引き止められたときの返し方

引き止めは、たいてい次の3つの形で来ます。事前に返し方を決めておくと、その場で考えずに済みます。

言われること 返す言葉の型
「人が足りないから、もう少し待ってほしい」 「引き継ぎの計画は私のほうで作ります。◯月末で調整させてください」
「条件を見直すから残らないか」 「ありがたいお話です。ただ、今回は職場を変えること自体を決めています」
「次はどこに行くのか」 「まだ確定していないので、決まりましたらお伝えします」

共通しているのは、理由で戦わないことです。理由を出すと、その理由への反論が返ってきて、話が長くなります。決定の報告として、同じ内容を静かに繰り返すほうが早く終わります。

これは通らない、という話を2つ

まれに、こういう言われ方をすることがあります。制度のほうで先に否定されているので、知っておくだけで十分です。

  • 「途中で辞めるなら違約金を払え」:労働基準法16条は、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償の額をあらかじめ決めておく契約を禁じています。
  • 「最後の給料は保留にする」:労働基準法23条により、労働者が退職した場合、権利者の請求があった日から7日以内に賃金を支払い、積立金などを返還することとされています。

それでも話が動かないときは、都道府県労働局と労働基準監督署に置かれている「総合労働相談コーナー」が使えます。労働条件全般の相談を無料で受け付けている公的な窓口です(2026-08-04時点、厚生労働省の案内で確認)。

いま切り出さなくていい人

次のどれかに当てはまるなら、今回は見送っても損はしません。

  • 次の職場を探し始めてもいない段階の人。退職日を先に固定すると、選べる範囲が狭くなります
  • 異動や部署替えの希望を、まだ出していない人
  • 賞与の支給日や退職金の勤続年数の刻みが、目の前に来ている人

逆に言うと、この3つが片づいているなら、待つ理由はもうありません。

私も、言い出せなかったほうです

私は転職活動を5回して、6社を渡り歩きました。人材紹介会社の社長をやっていた側の人間でもあります。送り出す側と動く側の両方を見てきて、はっきり言えることが1つあります。

会社の中にいるだけでは、自分の値段は一生わかりません。そして、値段が分からないうちは、辞める話も切り出しにくい。順番としては、外の相場を先に見て、それから話す。そのほうが言葉が落ち着きます。

……と偉そうに書きましたが、1回目の私は「今言ったら迷惑がかかる」で3か月ほど黙っていました。結局その3か月で状況は何も変わらず、言った翌週にはシフトが組み直されていました。迷惑の量は、たいてい自分の頭の中で一番大きく見積もられています。

次に見るもの

切り出す日が決まったら、その前に外の求人を見ておくほうが話が早くなります。登録前に公的サイトで確かめる数字と、最初の連絡までの流れを、初めて転職サイトを使うときの流れを見るページに順番どおり置いてあります。

この記事を書いた人

しばおと申します。1974年生まれの団塊ジュニアです。人材紹介会社の社長をやっていた側の人間で、自分自身も転職活動を5回、6社を渡り歩いてきました。

本文中の制度・数値は2026-08-04時点で確認したものです。申出期限や手続きは職場ごとに違うので、実際に動く前には自分の就業規則で必ず確かめてください。